『聖樹』に欠かせない礼装は、必要に応じて誂えてもらえたし、抑制剤も申請すればもらうことができた。
慎ましく暮らしてきたエマにとって、華やかな場は気後れするばかりだった。 何とか晩餐会を終えた後は、大広間でのパーティだ。 エマの仕事は、貴賓である帝国貴族のもてなしである。 大広間に足を踏み入れ、エマはその豪華さに目を見張った。 「うわぁっ」 白亜の大理石が床一面に広がり、その上には金糸のカーペットが敷き詰められている。天井には夜空の星を模しているのか、クリスタルのランプが無数にきらめき、光の粒が空間を漂っていた。 壁を飾る絵画や彫刻は、すべてこの国の歴代王や英雄たちの姿が描かれている。 だが、それ以上に目を奪われたのは、王国で採れる宝石で彩られた装飾だった。サファイアで象られた花のブローチ、ルビーを散りばめたグラスの縁、そして金細工の食器や柱の飾り。 ランダリエで産出される金や宝石を惜しみなく使い、豊かさを見せびらかすようだった。 「すごい……」 これほど豪華な装いは見たことがなく、エマは圧倒された。 「おい、何を呆けている」 「あっ、殿下」 「行くぞ」 レオナールがきつくエマを睨み、顎をしゃくった。 婚約者として、共に貴賓たちへ挨拶をして回らなくてはいけないのだ。 レオナールの夜会用の礼服は、黒を基調としたもので、胸元には王家の紋章が金糸で織り込まれ、王子の品格を表していた。 対するエマは、ここでも『聖樹』専用の白い法衣だ。式典のときより格を落とした礼装で、金糸の刺繍に、小さな宝石が縁取りに使われているだけの簡素なものである。 レオナールはエマを従えて、最初にオスティン帝国の皇太子の元へ、挨拶に向かった。 「皇太子殿下、お越しいただきありがとうございます。心より歓迎を申し上げます」 レオナールは格上の皇太子に、愛想良く話しかける。 皇太子は、この場にいる誰よりも豪奢で目を引く衣装だった。白を基調に金刺繍が施され、藍色のマントには皇